【東京美容師物語】日本一の美容師に、俺はなる!

東京は表参道。

「日本一の美容師」を目指すアシスタントのかずやは、今日もチョコチップスティックパンで空腹をしのいでいた。

この物語は、かずやのまわりで巻き起こる笑いと涙の『美容師物語』である。
 

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かずや
「トリートメントつけたので、浸透するまで少しお時間おきますね〜」

 

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かずや
美容師アシスタント3年目。日本一の美容師を目指し福岡から上京するも、持ち前の不器用さでシャンプー合格まで半年を費やす。ラーメンは細麺派。長男。

 

かずやはシャンプー台を離れ、急ぎ足でトイレへ駆け込んだ。
 

かずや
「オェェェェェェェェェ!!!」

 

昨晩、〆で食べたラーメンが便器の中に浮かんでいる。

二日酔いでサロンに立つたび「もう二度と呑まない」と心に誓うが、翌週にはまた同じことを繰り返している。
 

かずや
「今日よ、早く終わってくれ」

 

口のなかをゆすぎ再びシャンプー台へと戻ると、何事もなかったかのようにシャワーヘッドを握った。
 

かずや
「ではトリートメント流しますね〜」

 

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尾形
「あんたまた二日酔い?」
 

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尾形聡子
売上300万を誇る人気女性TOPスタイリスト。ビールをこよなく愛する独身アラサー。好きな男性のタイプは孫悟空。

 

スタッフルームでしじみ汁を飲んでいると、トップスタイリストの尾形が呆れた表情で隣に座った。
 

かずや
「ちょっと地元の友達と盛り上がっちゃいまして…」
尾形
「呑むのは勝手だけど、サロンワークに支障をきたすのはプロとして失格よ」
 

尾形の的確すぎる指摘にぐうの音も出ない。
 

尾形
「とりあえずこれ飲んどきなさい」
 

尾形が小瓶に入った白い錠剤を2粒差し出す。
 

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かずや
「は、ハイチオール…C?」
尾形
「二日酔いには、Lシステインよ」
 

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夕方を過ぎる頃にはかずやの調子は戻っていた。
 

かずや
「なんか食欲も出てきたな」

 

営業を終え、かずやはサロンからすぐの距離にある行きつけの家系ラーメン屋へ向かった。
 

かずや
「今日はしじみ汁しか食えなかったから腹減ったな〜」

 

ラーメン大盛りとサービスの小ライスを頼み席につく。
 

すると背後からかずやの名を呼ぶ声が聞こえた。
 

 
「おぉかずやじゃねーか!」
 

 
振り返るとそこにはロン毛にヒゲを生やした大男が、Tシャツ短パン姿で立っていた。
 

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大河隆
美容室BULBULオーナー。独自の経営手腕で店舗展開を進める凄腕社長。身長202cm。口癖は「日本一の社長に、俺はなる!」

 

かずや
「しゃ、社長!!」

 

かずやの勤めるBULBULのオーナー、大河だった。

大河は身長202cmの大男で、週に1度だけサロンに立つオーナースタイリストだ。
 

かずや
「社長、今日はお休みじゃ?」
大河
「おぉ、ちょっと新たな物件を探しに散歩しててな。腹が減ったから寄ったんだよ」
 

そう言うと、ラーメン大盛りとチャーシュー丼を注文した。
 

かずや
「社長、糖質制限してませんでした?」
大河
「3日でやめた」
かずや
「み、みっか…」

 

瓶ビールを追加注文する大河の姿に、頼もしさすら覚えた。
 

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大河
「かずや、調子はどうだ?」
かずや
「カットの試験がなかなか受からないので、毎晩モデル練習をしてます。サロンも最近はヒマな日が多くて…
大河
「そぉか。来月には副店長も辞めるし、踏ん張りどきだなぁ」
かずや
「スタイリストの〇〇さんも辞めちゃいますしね…」

 

かずやの所属する表参道店は、来月2人のスタイリストが退社する予定だ。

1人は副店長で地元の鹿児島に帰り独立をするという。もう1人は6年目のスタイリスト。彼はフリーランスとして活動するそうだ。
 

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BULBULは現在、東京神奈川を中心に7店舗を展開しているが、近年スタッフの数は減少傾向にある。

そんななかでも毎年20名ほどの新卒採用を行い、2年スパンで新店舗をOPENさせてきた。
 

かずや
「来年も例年どおり採用するんですか?」
大河
「もちろんだ。多くの若い人材を採用して、どんどん店舗拡大していく。そしていつかは日本一の店舗数を誇る美容室に。それが俺の正義だ
 

そう語る大河の顔は、少年のように無邪気な笑顔になっていた。

糖質制限は3日で諦めたが、日本一の美容室は本気で叶えるつもりのようだ。
 

大河
「フリーランスになって自分の夢を実現するのも大いに賛成だ。だが俺はもっともっと楽しいことがしたい
かずや
「楽しいこと?」
大河
「仲間と力を合わせて、1人では叶えられない大きな夢を成し遂げるんだ。仲間がいなきゃつまんないだろ?だから俺は仲間と共に日本一の美容室を作る。日本一の社長に、俺はなる!」
 

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かずやは大河の人柄に惹かれて、BULBULに入社した。

同じような想いのスタッフは多いが、日々のサロンワークに追われているとこういった想いは少しずつ薄らいでいってしまう。
 

かずや
「僕、BULBULに入って良かったです!」
大河
「なんだいきなり」
かずや
「でも…僕なんてサロンにいても何の役にも立たないし」

 

涙がこぼれ落ちそうになるのを、必死でこらえた。
 

かずや
「僕に何ができるんでしょうか…」

 

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大河
「何ができるかって?そんなもん決まってんだろ。目の前のお客様を全力で綺麗にするんだよ」
 

そういうと大河は物凄い勢いでラーメンとチャーシュー丼をかき込んだ。

その姿をしばし眺めたあと、かずやも負けじとラーメンと小ライスをかき込んだ。
 

かずや
「社長!俺、決めました!」
大河
「ん、なんだ?」
かずや
「日本一の美容師に、俺はなる!」

 

ガハハハッ!という大河の笑い声が、店内に響き渡った。
 

ー つづく ー

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