【東京美容師物語】シャンプーと夜のタイプは同じよ | 美容室の顧客管理ならLiME(ライム)

【東京美容師物語】シャンプーと夜のタイプは同じよ

東京は表参道。

「日本一の美容師」を目指すアシスタントのかずやは、今日もチョコチップスティックパンで空腹をしのいでいた。

この物語は、かずやのまわりで巻き起こる笑いと涙の『美容師物語』である。
 

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かずや
「今日はありがとうございました!お気をつけて」
 

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かずや
美容師アシスタント3年目。日本一の美容師を目指し福岡から上京するも、持ち前の不器用さでシャンプー合格まで半年を費やす。ラーメンは細麺派。長男。

 

PM10:30。

カットモデルを見送りフロアへ戻ると、トップスタイリストの尾形と1年目アシスタントの姿があった。
 

尾形
「工程通りにはできてるんだけど、なんかおもしろくないのよね」
 

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尾形聡子
売上300万を誇る人気女性TOPスタイリスト。ビールをこよなく愛する独身アラサー。好きな男性のタイプは孫悟空。

 

尾形
「シャンプーの本質を理解してないのよ」
 

セット椅子に座り濡れた髪をとかしながら話す尾形と、その横でひざまずきメモをとるアシスタント。

どうやらシャンプー練習をしていたようだ。
 

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尾形
「あんた、彼女はいる?」
 

「あ…はぃ、います」

 

尾形
「彼女、夜のほう満足してないと思うよ」
 

「えと、、夜のほう…ですか?」

 

尾形
「そう。気持ちよくないってこと」
 

 

かずやは自分が入社したての頃を思い出していた。
 

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尾形
「あんたさ、淡白すぎるのよ」
 

まさかシャンプーの練習中に、年上女性に夜の営みを指摘されるとは思ってもみなかった。

そしてそれが見事に的を得ていたことも、驚きを増長させた。
 

尾形
「シャンプーと夜の××のタイプは同じよ」
 

その日からかずやのシャンプーは劇的に変わった。優しさ、焦らし、緩急、そしてときに…激しく。
 

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「なにかあった?」

 

ある夜、彼女の加奈にそう言われたのもその頃だ。

 

そんなことを思い出しながらふと1年目アシスタントの顔を見ると、あの頃の自分と同じなんとも言えぬ複雑な表情をしていた。
 

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かずや
「尾形さん、相変わらずですね」
尾形
「シャンプーも××も、奉仕の心が大切なのよ」
 

こんなことを恥ずかしげもなく堂々と言えるのが、尾形の魅力だ。
 

尾形
「かずや、久しぶりに付き合ってよ」
かずや
「お!ぜひぜひ!」
 

2人はサロンの裏手にある焼き鳥屋へ入った。
 

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かずや
「瓶ビール!グラス2つで!」
 

尾形のドリンクは確認するまでもない。もっぱらビールをグラスで流し込む。
 

尾形
「最近、彼女とはどう?」
かずや
「ボチボチっすね〜。あ、夜のほうはもう淡白じゃないですよ!笑」
尾形
「彼女に捨てられないようにしなさいよ」
かずや
「いや〜大丈夫っすよ。毎週会ってますし」
尾形
「会ってるっていったって夜だけでしょ。ちゃんとデートくらいしてあげないと、あんたの知らないうちに他の男と良い感じになってるかもよ?」
かずや
「あいつに限ってそんなことはないと思いますけどね〜」
 

いい加減な返事をしつつも、尾形の指摘はいつも的確なだけに少し胸がザワついた。
 
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尾形は不思議な女性だ。

サロンで唯一の女性トップスタイリストとして毎月300万を売り上げる一方で、ビールをこよなく愛し毎晩のように飲み歩いている。

かと思えば、料理教室へ通うといった家庭的な面も持ち合わせている。
 

そんな尾形だが、かずやが入社して以来一度も浮いた話を聞いたことがない。少なくとも2年は恋人がいないようだ。いやもしかしするとそれ以上かもしれない。
 

かずや
「尾形さんって、彼氏作らないんですか?」
 

問いかけてすぐ、失礼なことを聞いてしまったと後悔した。
 

尾形
「彼氏ねぇ〜、今はまだいらないかなぁ」
 

意外な答えに思わず前のめりになる。
 

かずや
「え!なんでですか!?」
尾形
「今は美容師でいる自分が一番楽しいし、恋人がいたとしても良い彼女でいられないしね」
かずや
「良い彼女でいられない、、」
尾形
「そりゃそうよ。土日はもちろん仕事だし帰りも遅い。デートに行ったってご飯食べるスピードが早すぎてひかれちゃうし」
 

いつもとは違う少し淋しげな表情だった。
 

尾形
「でも子供は欲しいなって思う。
恋人や結婚はまだいいけど、子供は今すぐにでも欲しいなって。矛盾してるよね笑」
かずや
「そういうもんですか」
尾形
「そうよ。20歳そこそこのあんたには想像できないと思うけど、30過ぎの独身女性には目に見えない焦りや恐怖があるの。
体力の衰えを感じたり顔のシワが気になったり、世間からの対応が変わることを実感したり」
 

いつの間にか尾形のグラスは空になっていた。
 

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かずや
「寂しくなったりはしないんですか?」
尾形
「ん〜、ないといったら嘘になるかな。でもまぁそういうときは××の相手はいるし」
かずや
「××の相手って、、まじすか…」
尾形
「そんなに驚くこと?」
 

そういうと尾形はハイボールの濃いめをオーダーした。

食べるだけでなく呑むのもスピーディーだ。
 

かずや
「尾形さんはカッコいいですね!」
尾形
「あんたたち男が頼りないからよ。美容師としてまだまだ負ける気がしないわ」
 

カッコいい美容師であり、普通のアラサー女子でもあり、酒好きのおじさんのようでもある。

そんな彼女が好きな男性の前ではどんな表情を見せるのか、少しだけ興味が湧いた。
 

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尾形がこの日最初の顧客のカウンセリングを終え、シャンプーマンを紹介する。
 

尾形
「今日は◯◯君にシャンプーを担当してもらいますね。この子、今年入社したばかりの新人なのでまだ技術的に完璧ではないんですけど、一生懸命やらせていただきますのでよろしくお願いします^ ^」
 

自らの顧客に丁寧に説明をし、1年目アシスタントにシャンプーを任せる尾形。

先日、夜の営みを指摘されていたアシスタントだ。
 

かずや
「尾形さん、あいつで大丈夫ですか?僕空いてますよ?」
尾形
「シャンプーも××も、奉仕の心が大切なのよ」
 

いつか尾形のシャンプーを受けて見たいと思う、かずやであった。
 

ー つづく ー

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